八角家ラボ
ゲーム製作サークル「八角家」の案内板でございます。(18歳未満の閲覧禁止!)
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【深空さんの本棚】第7回

画像元URL(Amazonから)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00GJMUTBS/

「以前コメントでお薦めいただいた本です。
ずっと積んでいましたが先日の金沢旅行の折に電車の中で
読ませていただきました。
『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』
ナンバリングタイトルですが、一冊で完結するお話として楽しめます。
出版はハヤカワ文庫さんで電脳世界のAI達の戦いを描いたSF作品ですね」
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仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、
ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが
永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。
謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。
わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――
仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。

「仮想空間と聞くとマトリックスのような世界を想像しますが、
この物語で舞台となる〈数値海岸〉は現代の風景とはかけ離れた
南欧ののどかな港町で、電車もなければテレビもない
古い田舎でのんびりと過ごすことを目的に作られた仮想世界です。
ゲスト、つまり現実世界のユーザーたちはお金を払ってこの世界に
休暇を過ごしに来るわけですね」
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「ところがこの〈数値海岸〉では奇妙なことにゲストがぱったりと訪れなくなって
1000年が経っています。
〈数値海岸〉のAI、ゲームで言うNPC達もこのことは理解していて
なぜゲストがいないのにサービスが続いているのか、サーバーが生きているのか
不思議に思いつつも現実世界で何が起こっているのか知る方法がないので
時間の止まった仮想空間で1000年間、ある意味での休暇を楽しんでいたわけです」
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「そんなある日〈数値海岸〉に恐ろしい生き物がやってきます。
蜘蛛の形状をしたその存在は〈数値海岸〉に住むAIたちごと
仮想空間そのものをばりばりと食べ、消失させてしまいます。
これに対抗するため〈数値海岸〉のAIたちは自前で防衛用のスクリプト
を組んだり〈硝子体〉と呼ばれる特殊なツールを使って
蜘蛛たちと戦います。
目次では1章から10章までありますが、実に2章から10章にかけて
主人公ジュールをはじめとするAIたちはずっと抵抗しています。
ふつう物語はお話が進むほど描かれる世界が広がっていくと思いますが、
このお話に関しては世界が食べつくされていくにつれて描かれる物理的な
空間が狭くなっていくので珍しいですね」
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「さて、この『グラン・ヴァカンス』、AIたちのいる仮想空間を襲ったのが
一体何者なのかも大事なのですが、それ以上にAIたち一人ひとりの
内面や存在意義について徐々にフォーカスされていくのも見どころなのです。
冒頭ではゆったりとした時間の中で過ごす牧歌的な仮想空間というイメージが
先行しますが、実際に〈数値海岸〉を訪れる現実世界のユーザーたちは
皆が皆そうではなかったことが分かってきます。
あなたは自分がNPCに対して自由にふるまえる仮想空間に遊びに来たら
何をしますか?
ゆっくりと朝食を食べながら何気ない会話を楽しむ?
港に出かけて釣りを楽しむ?
そうではないのです。
現実世界ではとても出来ないようなこと、
つまり許されないようなことをするためにやってくる人間もいるわけです」
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「そしてそもそも、そういうことをする人間を迎えられるように
〈数値海岸〉のAIたちは作られていました。
嗜虐的なゲスト、猟奇的なゲスト、そういった人たちを招いても
AIたちが壊れないように、
むしろそういったやり取りの中でこの仮想世界の深層にある歴史や人間関係
といったフレーバーに触れられるように設計されていたのです」
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そこでゲストたちを待っているのは、ひどい仕打ちをされると知っていながら
歓待してくれる、怯えた笑いのAIたちだ。ゲストの目には、自分たちへの恐怖と依存が、
くっきりと額に烙印されてでもいるみたいに、ありありと見える。実に心地よい眺め。
夏の区界。風光明媚で無垢の美しさに満ちた檻の、囚われの囚人たち。

「〈数値海岸〉のAIたちは当初、襲撃者の目的が全く見えませんでしたが
物語が終盤に近付くにつれて、それが〈数値海岸〉の根底にある設計に
深くかかわっていることを知ります。
このお話、SFということもあってAIを題材にしていますが
そういったAIの内面や個人の存在意義をごっそり舞台装置にしているという点で
非常にグロテスクです。
『他のAIを癒すために有りもしない恐ろしい出来事と罪悪感の記憶を
植え付けられたAI』など、考えられる限りのAI的な内面の恐ろしさが
克明に描かれています。
はっきり言って、えげつないです。
AIたちもそれが作り物の記憶であることは分かっているのです。
分かっていても逃れられないのは、それが人間にとっての
自分自身を形作る核となる記憶だからなのですね」
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ゲストは、空白のロールにあてがわれた椅子に腰かけ、家族の一員を演じはじめる。
妻が差し出すコーヒーの薫りを楽しみ、藍色の小さなガラス瓶に挿された可憐な
野草の花を愛で、木製の本棚に並ぶ背表紙の丁寧な仕上げに新鮮な感動を覚え、
そしておもむろに、かたわらでにこにこと控えていた『自分の息子』を凌辱するのだ。

「これから読む人は少ないと信じてネタバレをすると、救いはないです。
後半は特に読み進めるのがしんどいです。
1章だけ読むと、スタイリッシュでわくわくするような仮想空間での戦いが始まる!
と一瞬勘違いしますが、題材は非常に重いですね」
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「ただ、時折描かれる主人公ジュールの少年らしい心の機微や、良くも悪くも
動悸がするようなお話の展開でページをめくる手はほとんど止まりませんでした。
最後まで読んでから振り返ると興味深い視点がたくさんあって、
読んでみてよかったなと思いました。
近い将来に同じような仮想空間で実際に楽しむことが出来るようになったら、
このお話を思い出すかもしれませんね。
お薦めいただきありがとうございました」
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今年の大掃除も無事に終わりました。
ただいま次回作のヒロインの制作中です。

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コメント
[C2636]
- 2020-12-07 18:26
- 編集
[C2637] Re: タイトルなし
ダッツ 様
バーチャル空間ならではの変態的なシチュエーションは良いものが多いですよね。
電子世界で戦うヒロイン……いろんな敵が浮かびます。
次回作の主人公はハスミさんとは全く違ったタイプの子になります。
良いアクションが作れるようサロージャさんとこれからモーションを詰めていきますね。(み
バーチャル空間ならではの変態的なシチュエーションは良いものが多いですよね。
電子世界で戦うヒロイン……いろんな敵が浮かびます。
次回作の主人公はハスミさんとは全く違ったタイプの子になります。
良いアクションが作れるようサロージャさんとこれからモーションを詰めていきますね。(み
- 2020-12-07 19:50
- 編集
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仮想世界モノはえっちゲームの題材としても優秀・・・ゲフンゲフン
AIという存在は今の生活にも話題として取り上げられることも多いし、物語の登場人物ならではの偶像付けも書き手の表現が試されるところ・・・畏怖存在も電子世界ならではの表現で描けるのはステキですね・・・!
主人公ちゃん、古き良き時代的装いで良きシルエット・・・!
これは全容が気になる素晴らしい仕上がりになりそう'ω')-3-3