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【深空さんの本棚】第8回

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「今作の資料用に買った本の中の一つ、岡本綺堂の短編集『江戸情話集』です。江戸時代を題材にしたお話ですが、岡本綺堂自身は明治生まれの人。そしてこれに収録されているお話『籠釣瓶』(かごつるべ)は、元は歌舞伎の演目『籠釣瓶花街酔醒』で明治21年に初演、小説として初めて出版されたのは大正7年になります。江戸、享保の時代で実際に起きた吉原百人斬りと呼ばれる事件を脚色して作られた演目と言われています」

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「と前置きはともかく、この籠釣瓶というお話がですね、面白いんです。江戸情話集に収録されている短編はどれも色恋! 刃傷! 心中! と定番の内容が含まれているのですが、籠釣瓶は特にぶっ飛んでいて読みごたえがあったので紹介させていただければと思います。もし自分で読みたい! という方がいらっしゃいましたら、ここから先はネタバレ有りなのでご注意ください」

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 籠釣瓶は日本橋馬喰町の宿にある男とその家来が到着するところから始まります。この家来を連れた男が物語の主人公、次郎左衛門(じろざえもん)です。そして家来の方は治六(じろく)といいました。

 次郎左衛門は佐野(今の栃木県)の大きな地主の跡取りで、百姓でありながら腰に刀を差して賭場に入り浸るような放蕩息子でした。派手に金を使い、喧嘩もし、周りにごろつきをはべらせるのが好きという親族でも手の付けられないような荒くれ者なのでした。

 そんな次郎左衛門ですが、近頃はめっきり博打も喧嘩もしなくなり、牙の抜けた野犬同然になっています。次郎左衛門を変えたのは、吉原で出会ったある遊女。八橋という美しい女性の存在でした。子分たちを引き連れて初めての江戸見物で吉原を訪れ、出会ったのが八橋なのでした。

 ちなみに吉原というのは江戸の町にあった大きな色町(遊郭)です。入口にある桜並木が有名で、当時の人は吉原に用が無い人でも、近くを通れば色町で咲いて散る桜の花びらに風情を感じていたそうです。

 吉原で八橋に一目ぼれした次郎左衛門は、それから文字通り毎晩八橋のもとへ通うようになります。喧嘩自慢、子分自慢ばかりをする次郎左衛門に八橋は、

『ほかにもいろいろの渡世がありんしょう。喧嘩商売、よしなんし。あぶのうおざんす』

とつれなく応えます。それからは次郎左衛門は人が変わったように大人しくなり、博打もしなくなり、江戸までついてきた子分もあきれて次郎左衛門の一派から離れていきました。先代からずっと付き従っている家来の治六は、まぁこれでご主人がまっとうな百姓に戻ってくれるならその方が良いかとむしろその変化に安心していました。

 ところが次郎左衛門の惚れ込みようは尋常ではなく、家から持ち出した金千両、二千両をあっという間に溶かし、治六の勧めで一度故郷へ変えるも、江戸で放蕩している間に主人を失った家は取り潰し寸前の状態になっておりもはや百姓としても食いつないでいくのは難しい状態でした。お家はもうない、親族も離れてしまった、ただ父の遺産一千両と献身的な治六だけが残っている次郎左衛門。しかしそれでも次郎左衛門の頭には八橋のことしかありません。すでに危ない結末しか見えない身の上ですね。



 この冬、江戸にやってきた次郎座衛門の耳にはある噂が入っていました。それは八橋に『馴染み』(特に懇意にしている情夫)の浪人がいるぞ、というものです。栄之丞(えいのじょう)という名前のその男は下町で小鼓の稽古をしている貧しい男で、次郎左衛門とは真逆の大人しい優男でした。強面で財布と腕っぷしだけが自慢の次郎左衛門と、貧乏で優男の栄之丞。次郎左衛門は自分の方が見劣りするとはまるで考えていません。

当の八橋はというと、実は栄之丞と将来を約束し合い起請も交わした恋仲でした。起請(きしょう)というのはお互いの誓いを紙に書いて大事に仕舞っておくもので、当時の約束事としてはかなり意味の重いものだったそうです。

 八橋は遊郭で次郎左衛門と話をしながらも、内心は栄之丞が気になってしょうがありません。というのも、栄之丞の方は近頃懐がさらにさみしくなり店から足が遠のいているのでした。仕事がら八橋の方が羽振りが良いため、八橋の方が栄之丞にお金を融通することもしばしばでした。

 八橋は遊女という仕事で慣れているためかお金に関しては図々しく、それもとんでもないくらいに図々しく、栄之丞を助けるために『私の従弟である彼を助けてほしい』と嘘をついて次郎左衛門から金百両を栄之丞に融通させるなどはかりごとを巡らせます。八橋からすれば、栄之丞は従弟だから仲が良いのは不自然なことではない、という言い訳と、栄之丞を助ける一石二鳥の策なのですね。

 とはいえ次郎左衛門も鈍感ではありませんから、そんな嘘は何となく見抜いています。その上で『栄之丞に資金力で格の違いを見せつけてやろう』と、その後も会うたびに栄之丞に金を恵もうとするのでした。次郎左衛門の方もかなりいい性格をしています。



 しかし今年の次郎左衛門は後がありません、残りの千両を使い切ってしまったらもう八橋に会うこともできないので焦ります。そこで八橋にまとまった金を払い店をやめさせる『身請け』を考えます。そこで問題は八橋の身請けにはいくらかかるのだろうということになりました。

 家来の治六は主人の命令で吉原の下女から八橋の身請け代をそれとなく聞き出そうとします。けれども相手はその道のプロ、瞬く間に目論見はバレて八橋にも次郎左衛門が身請けを考えていること、次郎左衛門の持ち合わせが身請け出来る金額には遠く及ばないことが伝わってしまいます。

 それまで『佐野のお大尽様』で通してきた次郎左衛門は恥をかいたと激怒して治六に暇を出します。つまりクビですね。これまでどうしようもないご主人様に身を挺して付き従ってきた最後の家来までここで失ってしまうのでした。理不尽すぎる……



 そのころ栄之丞の方はというと、いよいよ八橋に面倒を見てもらうのは良くないと感じ、妹の奉公先も決まって生活が落ち着き始めたのもあって、吉原からは更に遠ざかっていました。八橋はそんな栄之丞を見てヒステリーがちになり、今度は太客である次郎左衛門の方に傾き始めます。ただしそれも次郎左衛門に惚れ込んでいるというわけではなく、自分から栄之丞を突き放して他の男と懇意にしている姿を見せつけたいだけでした。

 次郎左衛門の家が潰れてもうすぐ一文無しになることを知っている栄之丞は八橋にそのことを忠告しますが、八橋は気にも留めません。それどころか、次郎左衛門の方から残りの懐具合のことを打ち明けようとしても

『わたしに突き出されたのを遺恨に思って、栄之丞さんは嘘をつきなんした。それはわたしがよく知っておりいす』

と、あくまで嘘ということにしようとします。まだ金のあるうちは搾り取ろうとするとんでもない女ですよこれは。
 
考えてみると見栄っ張りで手元の資金だけがある次郎左衛門と、根っからの色町気質である八橋の組合せがいかに破滅的であったかが分かりますね。



 そして次の春になりいよいよその時が訪れます。江戸に持ち出した身の回りの品も着替えの着物も帯もすべて質に入れて完全なる全財産スパチャおじさんと化した次郎左衛門は、とうとう愛刀『籠釣瓶』を残して身銭が尽きてしまいました。ここでタイトル回収です。籠釣瓶は有名な村正の作で、水も溜まらぬ切れ味ということで名付けられた名刀でした。売れば五十両にはなりますから、もうしばらくは吉原に通うことが出来ます。

 ただ男を売ってきた次郎左衛門にとって籠釣瓶は魂のような存在でした。八橋とは別れたくない。籠釣瓶とも別れたくない……ここで大方の読者は察するかもしれませんが、追い詰められた次郎左衛門はある結論に至ります。

『籠釣瓶で八橋を殺して、自分も籠釣瓶を抱いて死ぬ。これよりほかに途はない』

 春の長雨が明けた日に次郎左衛門は久しぶりに吉原へ顔を出します。すっかり歩きなれた廓の階段を登り、『八橋』と言って振り返ると後ろにいた八橋に籠釣瓶を振り下ろしました。首を失った八橋の身体が階段を転げ落ちると店は大混乱となり、男たちが次郎左衛門を抑え込もうとします。そのまま切腹しようと考えていた次郎左衛門が大人しく腹を切らせろと逆上し、そばにいた人をばったばったと切り捨て、そのまま窓から屋根伝いに逃亡しました。

 駆け付けた火消しに次郎左衛門は屋根の瓦をはいで投げつけ、火消しもこれを投げ返します。足元が悪い屋根の上での捕り物はらちが明かないので、火消しは桶に水をたっぷり入れて次郎左衛門にぶっかけると、足を滑らせた次郎左衛門は屋根から滑り落ち遂に御用となりました。冒頭で話した吉原百人斬り事件というのがこの部分ですね。



 こののち次郎左衛門は獄門、籠釣瓶は上がりものとなって官が没収、一部始終を見ていた栄之丞は瓦が当たって死んだか、八橋と次郎左衛門の菩提を弔うために出家したと伝えられているそうです……おしまい。




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「時代は違ってもこんな人斬りスパチャおじさんLv.100みたいな人が歌舞伎の題材になると思うと、歌舞伎って面白そうだなぁって思います。やっぱり沼って……怖いですね。
 ちなみに私はやっていないのですが、原神に籠釣瓶という武器が登場するらしいです。これはまさか持ち主を課金沼に沈める妖刀なのでは……?」

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「まだまだ残暑が続きますね。朝晩は冷えるので体調に気をつけながら進めて生きたいと思います。所長のマインクラフト断ちはまだ続いているようです。このままいつまで保つでしょうか……ふふふ」

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「えのきっぷさんの新作、催眠たくさんありそうで楽しみですよね! 催眠シチュを見ている瞬間が一番生を実感する……!」

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「海外ゲームになりますが、Future Fragmentsという2Dアクションがもうすぐ発売みたいで楽しみです。
https://store.steampowered.com/agecheck/app/1238920/
DLsiteにもあったかな?
SteamでHゲームを遊ぶときはDisocrdのアクティビティ通知を切るのを忘れないように注意ですよ」

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「【注意】触手の卵を育てたらこうなる。みたいなタイトルで触手の卵を見つけても触らないように注意喚起する名目で観察日記的な連続企画をしてもらいたいですね。そして4日目を過ぎてから不自然に更新が途切れるのであった……」

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「催眠球を突きつけられて退くも進むもできない状況……いいですよね。両手足を拘束されて専用の衣装まで着せられたらもう堕ちるしかない、そう思わせられるの好きです」

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今週は第1ボスの拘束調整、ゲーム前半で登場するアイテムのUI用イラスト作業、第2部で登場する一般敵の拘束グラ作業をしていました。

お店で買える酒まんじゅうはハチナさんの好物です。

おいしそう。
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コメント

[C3692]

週更新作業お疲れ様でございます!`・ω・)ゞΣ
ハチナちゃんの好物は酒まんじゅう・・・沢山買って差し入れしてあげなきゃ!
でも食べ過ぎて酔っぱらったりしたら・・・その時はその時デスネ(

物語詩の内容を現代的に意訳するととんでもない羽振り歌舞伎で本当にフリーダムでちょっと羨ましい情景が浮かびますねぇ・・・!(⁰ω⁰)
原神では片手剣(形状は刀の黒身・刃が赤色)の「籠釣瓶一心」がございます
大まかに・・・イベント中に謎の襲撃者が手にしていた時は紫のオーラを纏い持ち主を乗っ取りその力を操る妖刀として、イベント終盤には力を失って摺れた灰鉄刀になったものを万葉が剣の思念を憑依させて鍛えなおし「籠釣瓶一心」として鍛造・使用可能となります(*‘ω‘*)
こっちではスパチャソードというより単純に妖刀の類ではありますが限定イベント産の一本なので価値の面ではそうなのかも・・・?
  • 2022-09-21 19:34
  • ダッツ
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[C3693]

更新お疲れ様です。
吉原百人斬りの話は知らなかったのですが、痴情のもつれもここまでくると終わりしか見えませんね。
「籠釣瓶花街酔醒」の後は「紺屋高尾」とかいかがですか。
落語の人情噺で遊女もメインで出てきますが、後味さわやかです。

敵の衣装着させられるの、すごく良いですよね!!ナディアの最終回近くだけでご飯3杯いけますね!
「堕ちるしかない」シチュもいいですが、逃亡or戦闘継続可能と見せかけて自分で堕ちちゃうボタン押しちゃう系のシチュも好きです
  • 2022-09-21 21:19
  • 大阪狭山市
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[C3694] Re: タイトルなし

ダッツ 様

お疲れ様です。酒饅頭おいしいから完成までにしこたま食べてもらうことになりそう、食べたい。
原神の籠釣瓶一心も妖刀なのですね!村正の設定をしっかり反映しててすごい……より禍々しいデザインなのも妖刀ポイント高いです。
  • 2022-09-21 21:23
  • MIZUKU
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[C3695] Re: タイトルなし

大阪狭山市 様

お疲れ様です。紺屋高尾は知らなかったです、この後探して読んでみます!遊女サンが出てくるのすき……
自分から誘惑に抗えなくなる瞬間の顔が真っ赤になって息が浅く早くなってドキドキが収まらない瞬間ほど素晴らしいものは無いですよね。
  • 2022-09-21 21:35
  • MIZUKU
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[C3696] 更新お疲れ様です。

そんな時代からすでに課金沼が。。。(恐々)

酒饅頭は間違いなく血糖値が爆上がりする奴。。。
っは!?
血糖値を各種開発度に変換すればいくらでも食べられるのは?
気持ち良くもなれるしハチナちゃん一挙両得ですね♪(^_^)v
  • 2022-09-21 23:21
  • 名無しのテノト
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[C3697] Re: 更新お疲れ様です。

名無しのテノト 様

お疲れ様です、やはりいつの時代も推しの力は恐るべきもの……
血糖値が開発度に変換されるバステ寄生虫、とても欲しいです!
  • 2022-09-22 00:20
  • MIZUKU
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