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【深空さんの本棚】第2回

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「こんにちは。
またまた枠を頂いたので、私の読んだことのある本の中からおもしろかったものを
ご紹介させていただきたいと思います」
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「というか続くんですね、このコーナー。
第1回から2か月近く経ってもうやらないと思っていたのですが…」
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「さて、今回も旅の小説をご紹介したいと思います。
ロバート・M・パーシグの「禅とオートバイ修理技術(上・下)」です」

禅とオートバイ修理技術〈上〉 (ハヤカワ文庫NF)
ロバート・M. パーシグ
早川書房
売り上げランキング: 71,830

禅とオートバイ修理技術〈下〉 (ハヤカワ文庫NF)
ロバート・M. パーシグ
早川書房
売り上げランキング: 76,189

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「前回の「アルケミスト」と違って日本ではかなりマイナーな本かもしれません。
読書メーターでは11/27時点での登録者数は292人ですね。
(「アルケミスト」は10,371人)

そして何よりこの不思議なタイトル――”禅”と”オートバイ”という取り合わせすら
不可解なのに、さらに”修理技術”と付いています。
もう何の本なのか想像もつきませんね。

原題は”Zen and the Art of Motorcycle Maintenance”と、まさにそのままです。
奇抜な意訳の結果生まれたタイトルではないようですね……
英書では草の間からスパナがのぞく表紙の絵がとても印象的です。」

Zen and the Art of Motorcycle Maintenance: An Inquiry Into Values
Robert M. Pirsig
HarperTorch (2006-05-01)
売り上げランキング: 25,653


とはいえ内容に矛盾があるわけではありません。

 かつて大学講師であった著者は失われた記憶を求め、心を閉ざす息子とともに大陸横断の旅へと繰り出す。道中自らのために行なう思考の「講義」もまた、バイクの修理に端を発して、禅の教えからギリシャ哲学まであらゆる思想体系に挑みつつ、以前彼が探求していた“クオリティ”の核心へと近づいていく。だが辿り着いた記憶の深淵で彼を待っていたのはあまりにも残酷な真実だった…。知性の鋭さゆえに胸をえぐられる魂の物語。
(あらすじ、早川文庫版から)

そして何より驚きなのが、これがすべてノンフィクション(著者自身の旅の物語)ということでしょうか」
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「著者のパーシグ氏は当時まだ行われていた電気ショック療法により一時記憶を失っています。
この本はそんなさ中に書かれたもので、現在息子や友人のジョンと一緒に旅するアメリカの荒野、
記憶をなくす以前にひとり旅した道、大学講師時代の様々な出来事を思い浮かべながら進んでいきます。

上下巻にわたる長編の上、多くのレビューで「難解!」と書かれるなど
複雑なお話でとてもすべての内容は書き切れないので、
物語の中心にある《クオリティ》について少しだけ
ご紹介したいと思います」
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【テクノロジーとの距離感】

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「このブログをご覧になっている方で『パソコンは全然ダメ!』という人は
あまりいらっしゃらないと思いますが、
パソコンが好きな方にも微妙な違いがあるかと思います。
・パソコンでやりたいことが出来れば満足な人
 (高性能なものが欲しい時はBTOでお店の人に作ってもらう)
・自分でパーツから組み上げたい人
 (ハイエンドにもリーズナブルにもできて、交換も自分でできる)

バイクが好きな人にもこの違いがあります。
・純粋にバイクで旅をすることが好き
 (メンテナンスや修理はすべてお店の人にやってもらう)
・バイクのネジ1本の役割や個々の部品の機能まで含めて好き
 (自分でバイクの分解やメンテナンスが出来て、交換のパーツも一揃い持っている)

この物語では、著者のパーシグ氏はバイクのメンテナンスにかけては熟練の人で、
一緒に旅をしているジョンはバイクは好きだけれどもメンテナンスに関しては
全くの素人です。

パーシグ氏はバイクの不具合やエンジントラブルの話になるとジョンがひどく
いらいらすることに気が付きます。
それは自分とジョンのテクノロジーに対する考え方の違い

『どんな小さな部品の1つ1つにも人間がその形に込めた意味がある』
と考えるパーシグ氏と
『テクノロジーはその当事者(専門の修理工など)でなければ全く触れられない、
 未知でしかも不愉快で、必要でもない限り考えたくない場所』
と考えるジョンとの違いであると分析します」
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【ロマン的か古典的か】


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「オートバイも含めて、この世界にあるどんな物にもロマン的側面と古典的側面
があるとパーシグ氏は考えました。

バイクに乗ると風が当たって気持ちいい、開放感がある、見える景色も
美しい……というのがロマン的な側面で、
バイクはクランクシャフトが1回転するたびに1平方センチメートルあたり
数トンものエネルギーがかかり、その爆発を制御するためにあらゆる
精密な部品が組み合わさって……というのが古典的な側面です。

パーシグ氏はこういった見え方の違いが生まれるのはなぜなのかを考えます。
男性的か女性的か、
西洋的か東洋的か、
キリスト教的か仏教的か……
様々な切り口からこの問題を分析していきます」
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【《クオリティ》とは何なのか?】

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「以前モンタナ州の大学で修辞学(文章の美しさや魅力を研究する学問)の
講師をやっていたパーシグ氏は、学生に向けて『《クオリティ》とは何か?』
という問いを投げかけました」
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「《クオリティ》とは何なのか?
例えば同じテーマで書いた文章が2つあったとして、
Aの方がBよりも優れていると感じればAの方がより多くの
《クオリティ》を備えてると言えます。

それは文章の読みやすさや接続の仕方や様々な表現技法が含まれているから
と分析することは出来るかもしれません。
けれども《クオリティ》そのものとは一体何かを考えることはとても難しい……

ある授業では学生の書いた2つのレポートを紹介し、
どちらが優れているか投票を行いました。
するとほとんどの学生が一方のレポートの方が優れていると答えます。
それは”そのレポートの方が《クオリティ》が備わっていることが分かる”からです」
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「分かっているはずなのに、それそのものを定義できないもの――
もともと哲学を専攻していたパーシグ氏は表面的な表現技巧ばかりを重要視する
修辞学を離れ、この問題を真正面から考えました。

そしてオートバイのメンテナンスや修辞法に端を発した《クオリティ》の
分析を日常のあらゆるものに広げていきます」
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「壁に掛けられた絵がむき出しの壁より優れているのは、その絵に
《クオリティ》があるからです。

交響曲がノイズやハム音よりも優れているのも、そこにやはり
《クオリティ》があるからです。

《クオリティ》がない世界では点を取ることや勝ち負けにも意味が無いですから
スポーツはありません。
余興や娯楽、食べる楽しみや見る楽しみも無いですから市場経済の
半分近くが無意味なものになってしまいます。

《クオリティ》がなくても世界は正常に機能しますが、それでは恐ろしく
退屈な世界になってしまう。
そして大半の人はそんな世界に生きる意味を見いだせない……

そんな《クオリティ》不在の世界を想定したとき、
ある考えがパーシグ氏の頭に浮かびました。
分析のナイフを手に取り、その先端を直接《クオリティ》という言葉に当て、力を入れずに軽く叩いてみた。すると全世界に亀裂が入り、二つに割れた──柔らかさと堅さ、古典とロマン、テクノロジーとヒューマニズム──その裂け目は実にきれいであった。かけら一つ飛び散ることなく、すっきりと割れた。みごとに、実に幸運としか言いようのない割れ方であった。
その《クオリティ》こそが世界の2面性を知るための手がかりだったと
パーシグ氏は考えました」
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「ではその《クオリティ》は一体どこから生まれるのか?
主観と客観のどちらに属するものなのか?

これ以降の著者の思索はとても難解で、私も半分くらいしか
理解できませんでした……」
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「最終的に著者は電気ショックで記憶を失う以前の自分と気持ちの整理をつけ、
息子のクリスと本当の”再会”を果たすことになります。

その長い旅の道のりやパーシグ氏が最終的に何を発見したのかについては
是非小説を読んでいただけたらと思います」
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「私も正直こんな変な本は他に見たこともなく、なかなかお薦めしにくいのですが
もし興味が湧きましたら読んでいただけると嬉しいです」
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「では、また機会がありましたら……
 ――えっ、『いま作っているゲームと関係があるのか』ですか……?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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「……ないですね♪
 たぶん全然関係ないです。
 読んでも別に予習にはならないと思います」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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「ではでは、また今度ですー」
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コメント

[C293]

本については、私には難しすぎのようなので、手はだせなさそうだなぁと・・・・

>どんな小さな部品の1つ1つにも人間がその形に 込めた意味がある
ちょっとひっかかったのがここでw
まぁ、意味合いは全然変わりますが、機械の修理、整備をしていたことがある
身として思ってたこと。
「機械の部品は、全てのものに意味がある」
売れるために外見をよくしてる部分のことじゃなくて、エンジンとかタービンとかモーターとかね。
ネジ一本、ぱっとみこれいるの?って思ってしまうようなものでも必ず意味が
あります。
人よりもずっと大きな機械の本当に小さい部品一つでも必ず意味があります。それがどんな意味をもっているのか理解するのは楽しいでした。

本やゲームとまったく関係ないコメント失礼しました。

[C294] Re: タイトルなし

> >どんな小さな部品の1つ1つにも人間がその形に 込めた意味がある
> ちょっとひっかかったのがここでw
> まぁ、意味合いは全然変わりますが、機械の修理、整備をしていたことがある
> 身として思ってたこと。
> 「機械の部品は、全てのものに意味がある」
> 売れるために外見をよくしてる部分のことじゃなくて、エンジンとかタービンとかモーターとかね。
> ネジ一本、ぱっとみこれいるの?って思ってしまうようなものでも必ず意味が
> あります。
> 人よりもずっと大きな機械の本当に小さい部品一つでも必ず意味があります。それがどんな意味をもっているのか理解するのは楽しいでした。

「コメントありがとうございます。
 とても分かります!
 私もはじめゲームのプログラムを実行するコマンドの1つ1つが
 どういう役割なのか全然分からなくてあたふた……
 RPGツクールを使ってるのに最近ようやく使い方が分かってきたくらいで。
 合理的で無駄のない構造は機械でもプログラムでも『綺麗だなー』って思いますよね」(深空)
  • 2017-11-28 23:16
  • MIZUKU
  • URL
  • 編集

[C295]

返信ありがとうございます。嬉しいです^^
技術屋って部類の感覚ですよねw
ゲームではCG,BGM、ストーリーとかの下に隠れてて見えずらいですけどとても大事。
一方で見える側のほうも当然大事で、その両方が
できていてこそ良いものとなるので。
両方をうまくできてるこのゲームに期待「大」ですw

[C296]

ブログの記事とあまり関係なくて申し訳ないですが、ハスミのやや自暴自棄な性格の原因や家庭事情が明かされたり、物語の過程でその問題を解決して精神的に成長する展開はあるのでしょうか?
  • 2017-11-30 08:53
  • N
  • URL
  • 編集

[C297] Re: タイトルなし

N 様

> ブログの記事とあまり関係なくて申し訳ないですが、ハスミのやや自暴自棄な性格の原因や家庭事情が明かされたり、物語の過程でその問題を解決して精神的に成長する展開はあるのでしょうか?

ハスミの内面に迫る部分は物語の核心部分なのであまりお伝えすることは出来ないのですが、
ハスミはこの7日間を通じて人間的に成長することになります。
鬱な形でエンディングを迎えることは無いのでその点ではご安心ください。
(ブログは気ままに更新しているだけなので関係なくても全然大丈夫です。)
  • 2017-11-30 13:32
  • MIZUKU
  • URL
  • 編集

[C298]

ありがとうございます。
体験版の内容がエロだけでなくそっち方面も期待できそうな雰囲気だったので嬉しく思います。
  • 2017-11-30 20:08
  • N
  • URL
  • 編集

[C299]

ブログ更新お疲れ様です。
未読の人間なので、本ブログを見た感想を書きこませて頂きます。長文なうえ、誤解が多いと思いますけれど知的探求を誘われた故とご容赦ください。

「クオリティ」の話はプラトンの「イデア論」を参考にしているのかなと思いました。2つの文章の例で、クオリティ自体の説明は難しいがクオリティが備わっているのはわかる。これが、本質としてのイデアそのものは見えなくても、何たるかは感覚的にわかる、と似ているなと。
そこから分析によって、西洋哲学の伝統的な二項対立を思わせるような物事の2面性を取り出したのは哲学史的な魅力を伺わせます(ブログ内で出た二項対立はどちらかが優越するような組み合わせではありませんが)。
では西洋哲学で終わるかと思いきや、タイトルには「禅」(=東洋的な思想)が組み込まれているのが興味深いです。禅問答のように、説明ではなく直観的に答える=クオリティそのものをつかむ行為?と想像しております。この予想は外れているでしょうが、機会あらば読んで確認してみたいと思います。

長々と申し訳ありませんでした。こういった本に関するブログは大好物なので、次回以降も他更新とともに期待しております。
  • 2017-11-30 21:45
  • 薬膳
  • URL
  • 編集

[C300] Re: タイトルなし

薬膳 様

> 「クオリティ」の話はプラトンの「イデア論」を参考にしているのかなと思いました。2つの文章の例で、クオリティ自体の説明は難しいがクオリティが備わっているのはわかる。これが、本質としてのイデアそのものは見えなくても、何たるかは感覚的にわかる、と似ているなと。

「その節はあると思います。
 下巻ではソクラテスからアリストテレスまでの一連の思想をなぞるので、
 そのあたりを意識しているのかな……と」

> そこから分析によって、西洋哲学の伝統的な二項対立を思わせるような物事の2面性を取り出したのは哲学史的な魅力を伺わせます(ブログ内で出た二項対立はどちらかが優越するような組み合わせではありませんが)。
> では西洋哲学で終わるかと思いきや、タイトルには「禅」(=東洋的な思想)が組み込まれているのが興味深いです。

「そうですね。
 著者自身は話の中でアリストテレスを研究する別の教授と激しく対立しているので、
 ギリシャ哲学から連なる西洋的な考えに抗するための独自の論理を組み立てたかったのかもしれません。
 アメリカでは発刊と同時にベストセラーになっているので、
 やはり単なる東洋哲学研究とは一線を画すものなのかなと思います。旅の本なんですけどね!」(深空)
  • 2017-11-30 22:40
  • MIZUKU
  • URL
  • 編集

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